2009年8月12日水曜日

四川のうた


 「長江哀歌」の大ヒットも記憶に新しいジャ・ジャンクー監督の最新作、「四川のうた」は、閉鎖の決まった中国の国営工場を舞台に、ドキュメンタリーとフィクションをモザイク状に組み込みながら、そこで働く人たちの人生=中国の50年の縮図を描きます。 解雇される人たちの嘆き、地方と都会の格差、世代間の隔絶と、問題は日本のそれとうつし鏡です。一度途方に暮れても、自分を信じてまた歩き出す人たちの姿は希望を呼ぶことでしょう。
 
 4月1日発行の「ART VILLAGE VOICE」のトップページのインタビューで、 ジャ監督が日本の皆さんにメッセージを送ってくれています。是非お読みくださいね。

ゼラチンシルバーLOVE



ゼラチンシルバー写真: 銀塩写真。感光材料が塗られたフィルムを露光させる方式で撮影した写真のこと。

 対岸に住む美しい女を、ビデオカメラで24時間監視する男。依頼主の目的がわからないままひたすらビデオを回す男は、いつしか言葉も交わしたことのない女に魅かれるようになる。女は出かける前に必ずゆで卵を一個食べる、まるで何かの儀式のように。
 人が死ぬ現場にたたずむ女に遭遇する男。ある日女は男の前に現れて、自分は暗殺者だと言う。「わたしは美しいものが好き、例えば人の死ぬ瞬間の顔とか」
 男はテレビ画面に映した女を狂ったように、ゼラチンシルバーフィルムで撮り始める。触れられないからこその執着をもって。自分が美しいと思ったものにだけ感光する男の心に、女の姿は救いがたく焼き付けられた・・・

 「見るということの中には必ずサディズムがある」と言ったのは誰だったか、でもこの場合はマゾヒズムでしょう。ふたつは表裏一体とも言われますね。
 浮世離れした設定を支えているのは、暗殺者を演じる宮沢りえの絶対に手が届かない高嶺の花感と、撮る男を演じる永瀬正敏の黙っていても滲み出るセクシーフェロモン。脇(というには豪華すぎる)を固める役所広司、天海祐希も大人の魅力で、映画の世界観を一層揺るぎないものにしています。
 繰上和美監督は、著名人のポートレートを数多く手がける写真家。これが初の映画作品ながら、人物を撮ることへの美学が存分に生かされた映像が見る人を惹き付けてやみません。

 KAVCでは6月公開。もう少々お待ちください!

クローンは故郷をめざす

年度が開けたと思ったら桜の咲いた散ったにやきもきし、あっというまに四月も中旬になろうとしていますね。 今年は桜の開花は記録的に早かったというのに、そのあと真冬並みの気温が続いて、すっかり満開の時期を読み違えてしまいました。おかげで花のない花見をするはめになり・・・ ただ今週いっぱいは楽しめそうですね。 皆さんお花見は済まされたでしょうか。
そうこうしているうちに、今年もGWがやってきます。 5月のラインナップは各所で紹介していますが、最近追加になったばかりの作品の紹介を。
5/16からはミッチーこと及川光博主演の「クローンは故郷をめざす」の上映が決定! 人間の完全なクローンを作ることが可能になった未来。宇宙飛行士の耕一は、宇宙で事故があった際のバックアップにと、記憶も肉体もすべて自分と同じクローンを作ることを勧められる。計画に同意した耕一は事故に遭い帰らぬ人となるが、耕一のデータをすべて再生したクローンが誕生する・・・はずだった。しかしクローンの記憶は、耕一が双子の弟を事故で亡くした少年期で止まっていた。
石田えりや永作博美などの演技派を相手に、映画初主演とは思えないほどの熱演を見せるミッチーがみものです!

キャラメル




 中東女性のイメージを鮮やかに裏切る映画です。
 一口に中東と言っても、イスラム原理主義の独裁政権がある一方、穏健な民主政権もあるというのは知っていたのですが、どうにも女性はチャドル(あの被ると黒いおばけみたいになるやつ)をまとっているイメージが。まあそれは極右だとしても、少なくとも皆スカーフくらいは被っているだろうと思っていたわけです。
 
 ところが。「キャラメル」の舞台は首都ベイルートの美容院。髪を見せること前提じゃないと成り立たない商売ですよね。美容院で働く女性も常連さんもみんな髪巻いたり染めたりオサレ。首都だからっていうのをさっぴいたとしても、軽くショックだったわけです。

 で、レバノン版SATCとか言われてるみたいですが、そこまでスラップスティック色は強くなく、むしろアルモドバル?不倫や結婚への不安、老いらくの恋や、仄めかし程度ですがレズビアン的な要素さえ。レバノンの恋愛事情・・・未知の世界をのぞきに行きませんか!

心理学者 原口鶴子の青春〜100年前のコロンビア大留学生が伝えたかったこと〜


 100年前、NYはコロンビア大学に単独留学して、心理学の博士号をとったうら若い日本人女性をご存知ですか?今だって十分高いハードルなのに、渡航先の情報が今とは比べ物にならないほど少なかった当時、並大抵の努力では成し遂げられなかった功績では。
 けれどその努力を努力と思わない人というのが、鶴子さんに感じた印象。映画中で頻繁に紹介される、鶴子さんの著書「楽しき思ひ出」では、日々海外生活の新鮮さに感動し、生き生き毎日を楽しむ姿が浮かんできます。名士の集まる舞踏会に呼ばれて和装でダンスを踊ったこと、ファッションにも強い興味があり、日本の妹に流行の雑誌を送っていたこと。
 もちろん本業の学業にも人一倍力を注ぎました。試験前は寝る間を惜しんで勉強し、自らを実験台にして心理学上の困難な実験を行ったりも。その甲斐あってか、指導教授に業績を高く評価され、論文が専門書に引用されたこともしばしばです。  輝かしい業績に満ちた留学の日々でしたが、日本に戻った彼女を病魔が襲い・・・。
 もちろん恵まれた家庭環境、類い稀な才能と心身の健康という条件が揃っていたためではありますが、彼女を見ていると「何だってできるかも!」という気持ちにさせられるから不思議です。百年前の女性に元気をもらいに来ませんか?

懺悔

年度末いかがお過ごしでしょうか?それなりに忙しいせいもあり、 すっかりブログの更新をサボっておりました。 年度明け4月から、初夏にかけての話題作の上映がぞくぞく決まっております。
 
崩壊前夜の旧ソ連のお膝元、グルジアで撮られた「懺悔」。 なんと日本初公開となるこちらは、「ざくろの色」を思わせる抽象性と詩情を醸しながら、しっかり体制批判にもなっている傑作です。 亡くなった独裁者の死体が何度も掘り返される事件が起こる。被告人として法廷に現れた女性は、独裁者によって理不尽にも引き裂かれた家族の歴史を話し始める。 理不尽を理不尽と知りながら、自分かわいさに何もしない人々。独裁者よりも何よりも、一番怖いのはこういう類いの人たちです。権力者にとって無関心は何よりの援護射撃。自分が世界各地で起こる紛争や戦争に加担していないと、胸を張って言えるでしょうか?

2009年7月4日土曜日

愛のむきだし!


 KAVCでの公開は初夏ごろなのですが、ぶっちぎりのハイテンションムービー「愛のむきだし」、早くも多々お問い合わせを頂いています。
 宗教!盗撮!バイオレンス!近親相姦!一家離散!少年犯罪!ひとつで一本映画が撮れるくらいのキーワードがストーリーにだだ漏れし、ものすごい奔流となって一瞬たりとも飽きさせません。この映画、4時間あるんですけどね。
 なんと言ってもこの映画のパワー、主演のふたりの若いエキスが決め手。主人公ユウ役の西島隆弘くんは、アイドルグループのメインボーカルなのにいろんなものをむきだして新境地を開拓しまくってます。というか劇中の女装がすんばらしい仕上がりで、女子として負けた・・・と言わざるをえない。弱冠22歳にして目をむくほどのプロ根性とふっきれ具合を見せてくれます。むしろ若気の至り?
 もうひとりの主人公ヨーコを演じるのは、江川達也のエロ漫画からそのまま抜け出てきたようなルックスの満島ひかりちゃん。ナイーブなのに硬質で、可憐な表情したかと思えば喧嘩上等。極端から極端への振れっぷりがたまらない。  
 脇を固める俳優陣もくせものばかりです。奥田瑛二の実娘・安藤サクラ、渡部篤郎、吹越満、堀部圭亮。個人的にびっくりしたのは、AV制作会社のグループ面接のとき、一緒に面接受けてたアノ人。「えっ、生きてたの?」くらいに久々に見た・・・
 アドレナリン出まくる殺陣シーン、ベタを極めたお笑い、その合間に思春期の行き場ない感情を思い出させられたり、なんせ見る側も忙しい4時間ですよ!