2009年9月12日土曜日

「子供の情景」「精神」




「カンダハール」の監督、モフセン・マフマルバフの愛娘ハナ・マフマルバフによる「子供の情景」。

アフガニスタンを舞台に、一人の幼女がどうしても学校に行きたくて、ノートを手に入れ、学校に辿り着くまでの一日を描く。とにかくバクタイ(↑)役の女の子がかわいい。子どもを滅多にかわいいと思わない(笑)のですが、この子は健気でありながら毅然としているんです。見ていて痛快な子どもって、なかなかいなくないですか?

この子だけを見ているとほのぼの系映画かと思うかもしれませんが、画面全体に緊張感が溢れていて、ざわざわと胸を騒がせます。頻繁に映し出される、タリバンにより爆破されたバーミヤンの仏像跡で戦争ごっこに興じる子供たちが、社会への強烈なメタファーに見えることも。

英題は「Buddha Collapsed Out of Shame」。「ブッダは恥辱のために崩れ落ちたのだ」というこの題名は、父モフセンの有名な著書にインスパイアされています。異文化を排除・破壊する行為には生理的嫌悪を覚えてしまいますが、どうして仏像は「破壊された」のではなく、「崩れ落ちた」のか?先進国側からでなく、アフガニスタン側から状況を見る新鮮な体験ができます。

映画監督一家のアカデミックな空気の中で育ったハナは、幼い頃から天才ぶりを発揮。9才にして短編映画を初演出、15才にしてドキュメンタリーを初監督、また詩集を出版。フィルモグラフィーを見てぶったまげたのですが、なんと19才で「子供の情景」を撮ったそう。まさにアンファン・テリブルの呼び名にふさわしい才能です。

「子供の情景」(2007年/イラン・フランス/81分) 近日上映



精神(8/15〜)


 「選挙」の想田和弘監督の観察ドキュメンタリー第二弾、「精神」。岡山の精神病院に通院する患者たちと、患者から「ブッダより」慕われる山本医師を中心に、よく病名は聞くけれどカーテンの向こう側に透かし見るだけの世界をくっきり映し出します。

 こういう言い方は語弊があるかもしれませんが、わたし自身「そっちの世界」に興味があって、人並み以上には知っているつもりだったのですが、聞くと見るとは大違いですね。一番想像と違ったのは、インタビューを受けている患者さんたちが皆、ちゃんと筋道立てて自分の状態や、経験や、感情などを語ること。多分どうして自分がこんなことになったのか、理路整然とならざるを得ないくらいに考えて考えて考え抜いてるんだと思います。もちろん人によって程度の差はあるでしょうが、その正直さと自己を見つめる透徹したまなざしに、「健常者」よりもよっぽど真摯なものを感じてしまいました。 

 終盤、自作の詩や短歌を披露して談笑する患者さんたちは、一見どこが普通と違うのかが分かりません。ただその和やかなシーンのあと、監督はひやりとするようなラストを用意しています。それまでこの映画を見てきて、「なんだ、全然わたしたちと変わらないじゃないか」といって偏見のカーテンを開けようとした瞬間、その手を一瞬止めてしまうような。 

 人間が千差万別なら、精神病の症状も同じです。「健常者」の都合のいい類型に当てはめることはできないのです。

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