サングラスをかけてさっそうと登場した想田監督。「格好つけてるんじゃないですよ。家で7.5匹猫を飼ってるんですが、猫アレルギーになっちゃって。0.5は餌だけ食べにくる近所の猫です」と、初手からお客さんを笑わせます。
ティーチ・インは10:30と16:25の回終了後にそれぞれ行われ、お客さんから鋭い質問がひきもきらずに続きました。その中のいくつかをピックアップしてご紹介します。(Qは質問者、Aは監督)
Q:「前回は『選挙』で、今回は『精神』。まったく違うテーマを選ばれていますが、どうして精神病院を舞台に映画を作ろうと思われたんですか?」
A:「僕は東大出身なのですが、在学中に東大新聞という週刊の新聞の編集長をしていました。これがなかなかの激務で、毎日休みなく朝から晩まで働いていたら、ある日身体が全然言うことを聞かなくなったんです。おかしいぞと思って精神科へ駆け込んだら、燃え尽き症候群と診断されて。それまで精神病というのは特別な人たちがかかるものだと思っていましたし、友人たちからも、「精神科は自分から駆け込むところじゃないぞ」と揶揄されました(笑)でもそのとき、精神病が決して特別なことじゃないということが分かりました。僕自身にもあった『見えないカーテン』を取り払って、それを伝えたかった」
Q:「毎日患者さんと会って深刻な体験を聞くことで、ご自分がバランスを崩しそうになったことはなかったんですか?」
A:「僕はカメラごしに、アングルとか絞りのことを気にしつつ聞いていたので、どっぷり話に浸かるということは実はなかったんですが、妻(振付師のキヨコさん)は120%彼らに向き合って話を聞いていたので、ミイラとりがミイラの状態になってしまいました。結構激しい落ち込みが続いて、「この状態が続くようだったら、キヨコを岡山に返して」と義母に言われ、「ええー、離婚?」と焦りました。妻は自分で山本先生(こらーる岡山の医師)の診察予約を入れ、僕はやっぱりそこは映画監督なものですから、夫としての思いとは別に「これはすごいシーンが撮れるかも!」と思ってしまったのですが、「あんたの悪口言うんだから駄目!」と拒否されてしまいました(笑)。妻は診察後はスッキリした顔で出て来ましたよ。今では笑い話です。
Q:「出演されていた患者さんたちの、映画を見終わった感想はどうでしたか」
A:「それは僕が一番気にかけていたところです。映画を見ることで症状が悪化してしまう人が出たら、と恐れていました。実際、「見たくない」という人も何人かいました。映画の中で過去の辛い体験を告白している藤原さんもその一人で、僕は迷いに迷って彼女のシーンを入れたんです。岡山での試写の途中で藤原さんが現れて、「あのシーンは入れたんですか」って聞かれ、入れましたと答えると、「わたしはもう生きていけない」とショックを受けていました。僕も彼女の様子に「どうしよう」とうろたえていたのですが、映画の冒頭に出てくる美咲さんが、「でも、わたしはこれを見たことで、あなたのことが深く理解できた」と助け舟を出してくれたんです。藤原さんも美咲さんの言葉をきっかけに、徐々に納得してくれました。そうやって、患者さん同士で支えあって、議論してくれたことで、全国公開までこぎ着けられたんだと思います」
最後には、藤原さんからもらったという手紙を朗読されました。真摯でユーモアのある手紙でした。
参加してくださった皆さん、想田監督、ありがとうございました!
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